「買ってください」と言われる前に、もう「欲しい」と思っていた。

詐欺的な販売の怖さは、最後の売り文句だけでは見えません。

商品を見た時には、すでに相手を信用している。紹介された方法が、自分の悩みを解決してくれると思っている。

では、その信用や期待は、どこで生まれたのでしょうか。

偽のニュース記事を使った販売事例を入口に、商品を勧められるまでに、買い手の中で何が変わるのかを見ていきます。

その過程を知ると、まっとうな商売でも必要な「教育とセールス」の役割が見えてきます。自社の販売ページで、商品を勧める前に何を伝えるかを考える手がかりです。

売り込む前に、「この話は信用できる」と思わせる

米国で消費者保護を担うFTCが、2022年に紹介した事例があります。

在宅で稼ぐ仕組みを販売する業者が、CNNやFox Newsから届いたように装ったメールを送った、とFTCは申し立てました。

FTCの説明では、メールのリンクから偽のニュース記事へ誘導し、そこから販売サイトにつなぐ流れでした。ここで取り上げるのは、この販売手法に関するFTCの申立てです。FTCによる事例の説明

「うちの商品はすごい」と売り手が言う。

「この商品が注目されている」とニュースが伝える。

同じ商品でも、後者には「売り手以外も認めている」という意味が加わります。

この仕掛けでは、広告を第三者の評価に見せています。偽っているのは、「信用してよい」と判断する根拠です。

「誰が売っているか」だけでなく、「誰の言葉を信じて、ここまで来たのか」。そこまで見ないと、この売り方は分かりません。

「いい商品ですね」が「自分に必要だ」へ変わる

信用できる話でも、「自分には関係ない」と思えば買いません。次に考えたいのは、商品が「自分に必要なもの」に変わる過程です。

ここからは、普通の英会話講座で考えてみます。仕組みを理解するための説明用の例で、実在する講座の内容や成果を示すものではありません。

全20回。文法と発音を学べます。

内容は分かります。でも、これだけで欲しくなるでしょうか。

海外旅行で、話しかけられるたびに固まる人なら、

旅先で、自分の言葉で注文できるようになる。

と聞いた方が、学ぶ目的を想像しやすい。

ただ、憧れだけでは「いつか勉強しよう」で終わります。

そこで「単語は覚えたのに、なぜ口から出てこないのか」を考える。

単語を知らないのなら、語彙を増やす必要がある。知っているのに使えないのなら、会話で取り出す練習が必要かもしれない。

悩みの原因をどう理解するかで、選ぶ解決策が変わります。

後者の人にとって、注文や聞き返しを繰り返す授業は、「全20回の講座」から「自分に足りない練習」へ変わる。

これが、ここでいう教育です。知識をたくさん配ることより、相手が自分の問題と解決策を結びつけられること。

だからこそ、原因の説明は重要です。売りたい講座に合わせて原因を決めつければ、説明は分かりやすくても、選ぶ商品を間違わせます。

価格を見る時に、「何に払うのか」が分かっているか

英語の知識を得たいだけなら、無料動画や本も選択肢になります。

でも、自分の発音を直してほしい。一人では続かないから、練習相手が欲しい。

そんな人には、個別に教わる理由があります。

動画を見るだけの講座なら、無料動画と比べたくなる。自分の間違いを毎回直してもらえる講座なら、個別に教わる時間も比較に入る。

金額は同じでも、何と比べるかで「高い」の意味が変わります。

ただし、比較相手を変えたからといって、商品の中身まで良くなったわけではありません。

「将来の年収を考えれば安い」と言われても、その講座で年収が上がる根拠がなければ、払う理由にはならない。

見るべきなのは、実際に何を、どこまで提供してもらえるか。授業の見本や体験があれば、その差に払う価値があるかを確かめられます。

「高い」と言われた時、予算が合わない場合もあれば、払う理由が伝わっていない場合もある。

値下げする前に、この二つを分けたいところです。

そして、欲しくても買えない理由は残ります。日程が合わない。追加料金が分からない。続けられるか不安。

ここで必要なのは、具体的な商品・価格・条件を示すことです。

教育で、必要性や選び方が分かる。セールスで、その商品を買うか決められる。

日程で迷っている人に「人生が変わります」と重ねても、予定は空きません。迷っている理由と、答える内容が合っているかが大切です。

「買ってください」の前に、買う理由がある

冒頭の事例では、偽のニュースを使い、売り込み前に信用させようとしていました。

商品を紹介する前から、「何を信じるか」という判断に手を加えていたわけです。

良い商品を持つ人にも、買い手が判断するための説明は必要です。

なぜ自分に必要なのか。ほかの方法と何が違うのか。その違いを、何で確かめられるのか。

作り手には当たり前でも、初めて見る人には分かりません。

教育の質は、欲しくさせたかだけでは測れません。「自分には合わない」と判断する材料も渡せているか。

実績を偽らない。解決できない悩みまで「解決できる」と言わない。合わない人にまで売るための説明にしない。

買う理由を作ることと、買う理由をでっち上げることは違います。

自社の販売ページを一つ開いて、冒頭を読んでみます。「全20回」のような商品の仕様だけが並んでいたら、誰のどんな悩みに応える商品かを、最初の一行に書き出します。約束できる内容か、根拠と一緒に確かめます。

その一行をどう作るかは、「ファーストビューのキャッチコピーは何を書く?最初の1行を作る4ステップ」で、書き換え例とともに紹介しています。

出典・確認情報